『女性セブン』掲載 シンガーソングライター小坂明子さん 絶対音感の回復:耳鳴りの伴う聴覚異常、頭痛、肩こり、腰痛、喉のポリープ切除手術の後遺症による声の障害
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独占闘病告白 小坂明子 絶対音感が消えた日 大ヒット曲『あなた』から29年、突然彼女を襲った危機!台所の流しに落ちる水音が轟音に聞こえる!ああ耳がおかしい
[女性セブン 2002.3.28]
小鳥のさえずり、雨だれの音が、音符のついた音楽に聞こえるという、限られた人間だけが持つ絶対音感という才能。音楽一筋の充実した人生を送ってきた小坂明子は、ある日突然それを失ってしまう。頭の中に轟音が鳴り響き、左右の耳が違った音をとらえ、周囲の生活音は恐怖の音源になった。夜も眠れぬ苦しみと闘った日々を、彼女は静かに語った。
「もしも私が、家を建てたなら」
こんなフレーズで始まる『あなた』が、200万枚を超える大ヒットとなったのは、’73年のこと。当時、高校2年生、ピアノの弾き語りで自作の曲を歌った小坂明子(45才)も、いまは2児の母親。
歌では「小さな家」を建てるはずであったが、自宅は都内の閑静な住宅街。
「いえいえ、マイホームなんてとてもとても・・・・、歌のようにはいきません。これは、借家なんですよ」
あっけらかんと笑顔を向けるが、実はちょうど1年前、彼女はとても笑ってなどいられなかった。昨年の1月2日のことだった。
「朝起きたら、右の耳がへんなんですよ。飛行機の離陸のとき、気圧の関係で聴覚がおかしくなるってことあるでしょ。あれとおんなじで耳の中に何か異物が詰まったようになったんです」
’83年から歌手活動よりも作曲家として多忙な彼女は、ミュージカルの音楽監督も務める。
「その日はミュージカル『美少女戦士セーラームーン』の初日で、リハーサルに立ち会ったんですが、ソロで歌ってる女の子の声が、ふたりでハモって歌ってるように聞こえるんです。そのうち、右の耳元で誰かがぼそぼそ話してるようになって・・・・。どうしたんだろ、へんだわって、耳を引っぱったり叩いたりしてみたけど、ぜんぜん元に戻らなくって・・・・」
3日ほどすると、異常な事態が小坂を襲う。右耳に耳鳴りがし始め、やがて轟音が響くようになった。
「ゴーっという、電車が疾走するようなものすごい音が、耳というよりは、頭の中で鳴り続けるようになりました。それが四六時中、ガーッ、ゴーッって、響いて、夜も眠れなくなったんです」
ふだんは何気ない生活音が、彼女には恐怖の音源となった。たとえば、台所の流しに落ちる水の音や、玄関のドアを閉める音やチャイムが、とてつもない大きな音の怪物となって、彼女に迫るようになった。それは日増しにひどくなり、ただごとではなくなった。
小坂と一緒に音楽制作会社を営み、マネジャーでもある夫の千葉健治さん(52才)、そして14才と10才の2人の息子も、ママに気を使うようになった。夫、健治さんがいう。
「とにかく音を出さないようにしました。テレビも付けないで、私も息子たちも、抜き足、差し足で家の中を歩くようにしないと、ちょっとの音でも飛び上がって”頭が割れちゃいそう”って悲鳴を上げるんですから」
もう音楽の仕事はできない
耳鳴りと轟音は、10日余りたっても一向に解消されない。買い物で商店街に出ると、
あらゆる音が、小坂をめがけて殺到した。
「電車の音、車の音、人の会話などが、巨大なノイズ(雑音)となって、まるで音が熱をもったような感じで迫ってきて・・・・、頭が割れそうになって、家へ逃げ帰るしか術がありませんでした」
そのうち吐き気やめまいを伴うようになり、まさに音にうなされる日々となった。個人病院で診てもらったが原因がわからず、昨年の1月半ば、彼女は大学病院を訪ねた。そして聴力検査を受けたが「とくに異常は認められません。聴覚は正常です」と、医師はくびをかしげた。
音楽を仕事とする小坂にとって、耳は命にも等しい。この先、どうなるのだろうと、不安は膨らんだ。そして2月の初め、彼女はまた、異常な現象に遭遇する。襲ってくる周囲の雑音を遮断するため、ヘッドホンを装着して電子ピアノを弾いてみた。
「すると”ド”の音を弾くと、右耳は”ド゙”に聞こえるんですが、左耳は半音ズレて、”シ”の音に聞こえ、それが重なって濁った音で響くんですよ。もう、目の前がまっ暗になるほどの衝撃でした。
というのは、私には3才から”絶対音感”があって、自分より耳のいい人に出会ったことがないといえるほど、それだけは自身があったからです」
“絶対音感(アプソリュト・ピッチabsolute pitch)”とは、『ニューグロブ音楽辞典』によれば《ランダムに提示
される音の名前、つまり音名がいえる能力。あるいは音名を提示されたときに、その高さで歌える、楽器を奏でることができる能力である》という。
最相葉月さんのベストセラー『絶対音感』(小社刊)では、この絶対音感を持つ人は、小鳥のさえずり、雨だれの音、いや、虫の羽音までが、音符の付いた音楽に聞こえると記している。その絶対音感を失ってしまった・・・・!? 奈落の淵に立たされた思いだった。
「それからは、どんなきれいな音楽を聞いてもこの世にありえないようなきたない不協和音となって聞こえるようになったんです」
この約20年間、小坂は念願だった作曲家、アレンジャ-としての活動を続け、松田聖子や中森明菜の曲を書き、CM、アニメソングなど、年に200曲を超える曲づくりに追われてきた。「もう、音楽にかかわる仕事はできないかもしれない。いや、このままじゃ、そのうち耳が聞こえなくなって、ベートーベンになってしまう・・・・」
幼いころから”神童”とうたわれたベートーベンが聴覚を失ったのは、30才ごろといわれる。それはやはり、耳鳴りから始まったと、彼の伝記に記されている。
その恐怖が小坂の全身をすっぽりと包むようになった。そして耳の異変から3か月がたったころ、右耳の耳鳴りは少し和らいだが、症状は左耳へも移行し始めた。暗うつたる気持ちでいるとき高校時代の友人から、「気功でいろんな病気を治してくれるところがあるから、一度、行ってみたらどうかしら」
そう勧められた。3月の終わり、彼女はその言葉を頼りに、神奈川県横浜市にある「青島だいめい大明気功院」を訪ねた。
「最初は半信半疑でした。そしたら気功の青島先生が、私のからだのどこも触らないで、少しの問診だけで、”最初は右耳だけだったのに、いやぁ、左耳もおかしくなってる”といわれビックリ。左耳の異常のことはひと言も話してなかったので、どうしてわかるんだろうって」
そして青島先生は、背中に両手をかざしたあとこういった。「耳がヘンなのは、内臓からきている。とくに腎臓がかなり弱っています」
それから全身をさすって気を入れ、ツボを刺激する施術を受けた。
「初めて受けた30分ほどの気功で、長年の持病だった頭痛、肩こり、腰痛がケロッと治っちゃって、全身に気力がみなぎるっていうか、元気がワーッと出てきたんですよ」
それで彼女は、とにかく気功を信じてみようと思った。
気功で戻った「絶対音感」と「高音」
月に3~4回、通院して気功の施術を受けた。
「両手で気を起こして、10回くらい腰のあたりをさするっていうのを覚えて、治りたい一心で自宅でもせっせとやりました」
不思議なことだった。あんなに悩まされた耳鳴りと轟音が、1ヶ月ほどがたった昨年の5月半ばには、嘘のように消えたのだ。気功というのは、古代の中国の人々が生命の根源をさぐり、心身の鍛練として試みたさまざまな方法の集大成だが、小坂を治療した青島大明さんがいう。「”気”の定義はちょっと難しいんですが、わかりやすくいえば、すべてのものに満ちみちている、根源的なエネルギーですよ。人間のからだには、この気が流れる通路があって、気功用語では経絡(けいらく)といいますが、この流れがとどこおると病気になるわけです。だから気功療法では、気を使ってとどこった経絡を通じさせ、流れをよくします。
すると、元気がわいてくるんです。小坂さんの場合は、腎臓の経絡が詰まっていたので、頭や背中などから気を入れて流れをよくしたわけですよ」(青島さん)
一時は音楽の道を断念しなければと覚悟した小坂だが、気功と出合って絶対音感も戻った。
聴覚心理学が専門で新潟大学人文学部・宮崎謙一教授はこういう。
「もともと絶対音感の能力は途中で消えてしまうものではないんです。ただ、病気などで一時的に音の高さの聞こえ方が変わることがあります。これは普通の人では何の変化も感じないことなんですが、絶対音感をもつ人にとっては、例えば半音低く聞こえるだけでも相当な違和感です。病気が治れば、また元のような音の高さを感じることができるようになるわけです」
そして彼女にはもうひとつ、長いあいだ苦しみ悩んできたことがあった。
それは、歌うときに高音が発声できないことだっだ。
「もともと喉が弱くてポリープができて、’82年と’88年に2度、喉のポリープを切除する手術を受けたんです。でもその後、喉の調子が悪くて、ずっと悩み続けてきたんです」
それで彼女は、青島先生に相談した。すると、こんな答えが返ってきた。
「こんな声で歌っているのですか。私は、手術によって声帯が麻痺している人の症状を
改善したことがあります。あなたが歌いたいのなら、やってみましょうか」
というわけで耳の治療は、いつのまにか喉の治療に移った。喉や首すじあたりから気を入れ、両腕の指先までをマッサージする気功療法を受けると、澄んだ高音が出るようになった。夫の健治さんがこう言う。
「気功の施術を受けたあと、私のとこに電話を掛けてくるんですが、別人かと思うくらいきれいな声になるんです。テンションが違うんですよ」
喉のトラブルが解消した彼女は、昨年末、気持ちを新たにレコーディングに臨んだ。そして発売さてたCDシングル『キミに会いたくて』は、公開中のアニメ映画『ドラえもん ぼくの生まれた日』の主題歌。もちろん彼女の作詞・作曲である。
自宅の2階には、ミキサーの設備もある仕事場があり、ときには明け方近くまで曲づくりに専念する。そして現在、小学生から20代の若者まで20人ほどの生徒に、自宅でボーカルのレッスンを行っている。
「ポップスやミュージカルで活躍する若い人たちを育てるのが夢なんです。いえいえ、耳が変になって、結果的に気功と出合って、すごく積極的になれたんです。一度は歌をやめようと思ったけど、これからは作曲と歌と・・・・、ちょっと欲張ってみようかなって。いや、私、とっても欲張りなんですよ」
屈たくのない笑い声が弾んで、その横顔に、現在進行形の幸せが溢れるようだった。
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